女は男の駆け引きの道具ではない

 

大河ドラマ視聴者は、その年度のドラマだけでなく、同じ役者が過去にどう演じたか、登場人物が過去作とどう描かれ方が変わるのか、そういう見比べ方もできます。

 

石川数正出奔シリーズの結末篇となる第34話は、たまに出てくる松嶋菜々子演じる於大様(家康の生母)が好演していたのは個人的にはよかったです。

 

これまで「銭で動くなら早よ行け」と服部半蔵をこき使うなど、コメディ的な登場場面が多かった於大様ですが、ここは大事なシーンを見せてくれました。さすがは「利家とまつ」の主役経験者の演技でした。あれから21年です。

 

秀吉の妹を正室として押し付けられ、不貞腐れる家康に「人を思いやれるところがそなたの取り柄と思っておったがのう」「女は男の駆け引きの道具ではない」「蔑ろにされるものを思いやれる心だけは失うな」と説教できるのは、側室ではなく母でもないと説得力を持ちません。流れを変える大事な、そしてとてもいいシーンでした。

もちろん、ここも、最初も最後もしゃしゃり出た広瀬アリスのお愛もよかったです。男子目線だとウザく見られそうですが。

 

主戦派の脳筋家臣団は、恭順を裏切り呼ばわりして上役の石川数正まで排除して、戦って死ぬ覚悟を騙りますが、後の史実を知る視聴者は、この中で戦死するのが鳥居元忠だけという先を知ってます。だからこそ徹底交戦の馬鹿馬鹿しさも感じられるわけです。

 

おまえらこんなところで死なずに済んで助かったのう。

おかげで後に16神将とか呼んでもらえましたとさ。

 

そうして泣きながら自らの非を改める男子どものかっこ悪い姿が見れて、とてもよかったでぇす。

 

実際に家康が母から言われて態度を改めた史実はなさそうですけど、それはそれでいいんですフィクションだから。

大切なのは、家康が秀吉に下る動かしがたい史実を、説得力ある理由で流れを変えて見せないと、視聴者がついていけなくなってしまいます。

 

徳川家の物語は、神君の偉業のみにあらず、ドラマに出てくる忠実な家臣団の奮闘だけでもなかったはずです。

 

家康は当時の武将と比べても、多くの妻とその子供たちがいて、それなりに優秀で、徳川家を支えたことは、目立たないけど重要な要素でありました。

 

信康とか忠輝みたいな不詳の子も目立ちますけど。次男の結城の秀康や忠吉などの庶子も、長生きできていたら歴史は変わっていたかもしれない有能な武将になります。

 

これは豊臣家と比べれば、かなりのアドバンテージになったはずです。

 

約50話も使う大河ドラマで、ところところで見せている家族の存在は、大河に必ずある支流として個人的には楽しみにしています。